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熱のない風邪の一治験 
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2018年6月17日

熱のない風邪の一治験

発表:山森伸樹


初診:3月9日
患者:KM 50歳女性、パート勤務。

診察について
  初診時について
@KMさんは十数年来のリピーターで、少年野球繋がりで来院した。若い頃から鍼灸が好きで、家族や友人を連れてくるほど信頼を寄せてくれている。

A春先と秋口に体調を崩しやすく、この時期に来院することが多い。

  主訴
@喉が腫れて物を飲み込むと痛い。
A鼻水が出る。

  その他の愁訴、既往歴、現病歴、家族歴
@現病歴
・今朝から喉が腫れ、つばを飲み込むと痛い。
・鼻水が時々出る。
・数日前に次男が同じような症状を訴えていた。
・その他、頸肩のこり(特に左側)、易疲労感、倦怠感がある。

A既往歴
・6年前突発性難聴
・5年前耳管開放症
・気圧が変化すると耳の中が痛くなる。

B家族歴
次男が大学を受験し合格した。

  四診法
@望診
身長約165cm、体重50kg

A聞診
話し方や立ち居振る舞いは物静かである。頭の回転が速く、受け答えは明晰である。

B切診
・左前頸部が少しむくんでいる。同顎下リンパ節が少し腫れている。
・左中府付近が緊張し圧痛がある。
・肩背部は全体に冷たく、皮膚がピンと張っている。

C腹診
・腹部全体に冷たい。
・特に肺の診所が冷えており、ここだけそげている感じである。

D脈診
・全体的にやや沈・平・虚
・脈位では右寸口が九菽にありショク脈。

考察と診断
  西洋医学や一般的医療からの情報
病院には行かず、感冒薬なども服用していない。

  漢方はり治療としての考察
@咽喉の腫れ痛み、鼻水、腹診の所見は肺の病症である。
A肩背部の所見や易疲労感は陽気の巡りが悪いことを示している。
BAの原因は、次男の大学受験などによる心労と今冬の厳しかった寒さが考えられる。
Cつまり、心労による肺気の損耗、冬の寒さによって身体が冷やされたことによって陽気の巡りが悪くなった。
D3月の寒暖差が追い打ちとなって寒邪に付け入られた。
E脈診 所見もこれを裏付けている。

証決定)
風寒による肺病

治療経過
  初診時の治療
@本治法:左経渠(金穴)に営気の手法(てい鍼逆さま持ち)
A標治法:
・左至陰、少衝(金穴)に営気の手法(てい鍼逆さま持ち)
・頚部C3・C4間で脊際の圧痛点、左風池に透熱灸

  患者への説明(予後の見通しや注意事項、その他)
 次男の大学受験による心労と今冬の強烈な寒さで疲労している所へ、ここ数日の寒暖差が加わって風邪を引き込んだと思う。
 ただ、症状は軽く、病気も複雑化していないので、2・3回の治療で元気になるだろうと告げる。

継続治療の状況
 1回目(3月9日
風池と後頸部の施灸で肩背の緊張が弛み、じわっと汗をかいている。身体全体に暖かみが戻ってきた。
KMさんも身体が温まるのを自覚した。喉の腫れ痛みが半減した。

 2回目(3月10日)
 KMさん曰く、鼻水が止まった。喉の腫れはあるが痛みは殆ど感じない。昨晩はよく眠れた。
肩背部の緊張はなくなり、身体も温かい。脈は全体に浮き、ショク脈も感じない。右寸口はまだ沈んでいるがショク脈は殆ど感じない。
 証を肺虚陽虚証に変更する。本治法は左経渠に衛気の手法。標治法は肩背部に温灸を施す。

 3回目(3月12日)
KMさん曰く、喉の腫れも痛みもなくなった。疲労感もない。
肩背部の緊張は完全になくなった。右手寸口の脈は三菽に収まり、あるのかないのかわからない。
証は前回と同じ、選穴を大淵に変更した。標治法は肩背部に衛気の手法を施し、背腰部に温灸を施した。

結語
  結果
以上、3回の治療で諸症状は寛解したので治療終了とした。

  感想
@漢方鍼治療としての感想
 こういった病症は、まさに漢方鍼治療の面目躍如である。確かに、現代医学でも薬によって症状を治めることはできるだろう。しかし、倦怠感や易疲労感などの愁訴を除くことはできない。ここら辺は、結局のところ自然治癒力頼みである。
A「先生がいてくれて助かりました」
これは治療終了宣言の後にKMさんから出た言葉です。彼女にとって私はどうやらお守りのようです。治療科になってよかったと思える瞬間です。

  付記
 今の時代、刺さない鍼は大きなアドバンテージです。理由は二つ。
 第一に、刺さない鍼を実践している治療家はまだまだ少ないこと。第二に、患者さんは、あくまでも自分の苦痛を取り去って欲しいのであって鍼を刺してほしいわけではないからです。どうせなら痛くなくて効く方がいい。
 ちなみに、山森鍼灸院は鍼を刺さなくなってからの方が2・3割ほど患者が増えました。患者さんとすれば、何かをされたという感じはないのに、不思議と身体が楽になる。 なので時々こう言われます。
「丸で魔法みたい」
これは私にとって最高の褒め言葉です。それで私はこう答えます。
「魔法というより手品でしょ、何故って、ちゃんと種も仕掛けもありますから」

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