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右上腕骨外側上顆炎の一症例
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2019/01/20

右上腕骨外側上顆炎の一症例
〜症状はほぼ寛解したが今一歩のところで完全治癒には至っていない〜

発表:山森伸樹


患者:Y. T.  47歳女性、結婚コンサルタント
1 診察について 初診時について
初診:平成30年10月4日

[主訴]
@右肘が痛い。夜中にうずくことがある。
A右肘があまりに痛むので治療院を検索したら山森鍼灸院のホームページがヒッ トした。自宅から車で行けるところだったので来院した。

 [その他の愁訴、既往歴、現病歴]
@現病歴 ・発症は平成28年の暮れ。大掃除で壁を磨いていたら右肘がクキッとなった。
・整形外科にて「テニス肘」と診断される。
・2・3ヶ月おきにステロイド注射をすう買い受けるも、効果はかばかしくなく、 副作用の懸念もあって治療を中止した。
・現在、掃除機をかける、右手で思いものを下げる、ぞうきんを絞る、亀を飼っ ており、その水槽から水を捨てるなどの動作で疼痛増悪。
・ここ2ヶ月ほどは夜中に右肘がうずくことがある。 ・その他、肩・背中のこり(特に右側)、眼の疲れ。

A既往歴 特記すべきものなし。

 [四診法]
@望診 ・身長158cm、体重約50kg ・立ち振る舞いはキビキビとしている。

A聞診 ・立ち振る舞いに反してのんびりとした話し方、症状の重さを感じさせない。 ・話題が豊富で、話しているとこちらも楽しくなる。

B腹診 ・全体に柔らかいが、左側肝の診所が緊張している。 ・右悸肋部と天枢付近に抵抗感あり。

C脈診 ・やや沈・平・虚 ・左手関上十五菽で指を沈めてもなくならない。ショク脈である。

D切経 ・トムゼンテスト陽性 ・手を握らせるとずきっと痛む。 右肘全体的にむくんでいる。 ・肘関節が伸ばしにくく違和感を感じる。 ・手関節を掌屈させると外側上顆部に軽い痛みを感じる。

  2 考察と診断
[西洋医学や一般的医療からの情報]
@上腕骨外側上顆炎(epikondylitis humeri)は、テニスやゴルフをする人に多い ことから、「ゴルフ肘」や「テニス肘」などと呼ばれることもある。

A一般的には、40〜50代の女性に多い。レジ打ちやパソコンによる作業など、手 をよく使う職業に多い。

B多くは安静により回復するが、重傷の場合は消炎鎮痛剤、湿布、局所へのステ ロイド注射などを行う。

 [漢方はり治療としての考察]
@生来働き者であり、時間があれば何かをしていないと落ち着かない。これは肝 体質の人に多く見られる。

A年齢的に気血の巡りが悪くなり、関節周囲の軟部組織が柔軟性を失う。これに よって疲労や損耗から回復しにくくなる。

BAの基底には腎気の衰えがある。

C腎気の衰えは肝血を不足させ、血の巡りが悪くなる。

D血の巡りが悪くなると熱が発生し、肝実となる。

E右悸肋部と天枢付近の抵抗感は、それぞれ陰きょう脈と陽維脈の変動を示唆し ている。

  3 治療経過
  [初診時の治療]
@本治法:肺虚肝実証 右太谿に営気の手法。患部の腫れが半減した。

A標治法: A.奇経治療 ・肘が伸びにくいのは陰きょう脈の変動と診る。右築賓、右横骨を軽擦すると肘 関節が伸ばしやすくなった。 ・関節を掌屈すると外側上顆付近が痛いのは陽維脈の変動と診る。右臂臑、臑会 を軽擦すると痛みが軽減する。 ・これらの穴に対して営気の手法を施すと、肘全体のむくみが半減し、肘が動か しやすくなった。 B.その他 ・右外側上顆部に瀉法鍼とローラー鍼。 ・両側風池、肩井、臑兪などに衛気の手法。 ・頭部、側頸部にゾーン処置。 ・肩背部に温灸。

  [患者への説明]
@これはY. T. さんくらいの年齢なら時折診られる症状で、治療すれば必ず治ります。

A自発痛を収めるのに4週間はかかると思います。

B症状が気にならなくなるには更に4週間かかると思います。

  [継続治療の状況]
@10月4日〜30日(1〜8回目) 週2回のペースで8回治療した。6回目辺り(20日目)から夜間痛がなくなった ので証を見直す。左手関上が十二菽に落ち着いたがつやと力には欠ける。肝血が うまく巡らないと診る。

A11月3日〜29日(9〜15回目) ・証を肝虚陽虚証に変更。本治法は、主に右太鐘に衛気の手法を施した。数脈が 著しいときには剛柔関係を利用して左偏歴に衛気の手法を施した。 ・標治法は、瀉法鍼とローラー鍼を取りやめ、それ以外は行った。

B12月7日から現在 ・日常生活には殆ど支障がなくなったので週1回の治療とした。本治法、標治法 はAと同じ。ただ、元気になると調子に乗っていろいろとやってしまうので、なかなか完全治癒に至らない。

  4 結語
  [結果]
2ヶ月間15回の治療で日常生活に支障がないレベルまで回復したが、回復すると 嬉しくなって使いすぎてしまうために完全治癒には至っていない。現在、週1回 のペースで治療継続中。

  [感想]
整形外科の治療で症状の改善を見なかった症例が、てい鍼による少数穴治療によ ってわずか2ヶ月足らずでほぼ寛解できたのは、漢方鍼治療の面目躍如である。 優れた治療体系を構築してくれた先輩達に感謝と敬意を禁じ得ない。

  [付記] 整形外科の治療でもうまく治らない症状は意外に多い。鍼灸、なかんずくてい鍼 による漢方鍼治療にはまだまだ多くの可能性があると感じた。

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