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心虚による肩背部のこりの一症例
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2019/06/16

心虚による肩背部のこりの一症例

発表:橋上美紀



結果について
慢性的な肩背部のこりが証の異なりにより低迷していたが、心虚証の治療で改善した症例。

診察について
1 初診時について
 患者 80代女性、主婦。
以前から肩背部のこりがあった。定年の20年前に症状が悪化し、1年前より当院で肩背部のこりを治療している。当初、治療頻度は1週間に一度だが、現在は2週間に一回程度。

2 主訴
 頸部から肩甲上部から肩甲間部に及ぶ範囲のこり。
長時間読書やじっと同じ作業をしていると増悪する。こわばったような不快感。
 悪化すると頭痛のときもある。

3 その他の愁訴、既往歴、現病歴、家族歴
 (現病歴)
 頸椎ヘルニアによる肩背部のこり。
20年前 腰椎椎間板ヘルニアにより右腰臀部の違和感。腰部を触ると喜按。
 (その他の愁訴)
 若い頃のように動きたいが病気をしてから倦怠感が強くやる気が出ない。
冬の時期には冷え性から手足のしもやけがつらい。
姉二人が数ヶ月のうちに亡くなり、気分がふさぐ。考えすぎると眠りにくくなる。

(既往歴)
12年前 子宮体がんを卵巣全摘。年に一度検診し、再発なし。
 9年前  左乳がんをホルモン療法4回し、温存。現在も再発なし。
5年前  甲状腺低下症。
3年前  第12胸椎圧迫骨折。

 (家族歴)
父:戦死 母:肝臓がん 長姉:悪性リンパ腫 次姉:腸メラノウマ 弟:膵臓がん

4 四診法
舌診:舌質暗紅、舌先ぴりぴりする。
二便:ころころ便、ときどき頻尿。
脈診:沈・やや数・虚、渋。左手関上、左尺中浮。
腹診:季肋部が張っている。だん中あたりの熱感。
臍の左側肝の所見が力なく抜けた感じ。
下腹部の虚。臍から曲骨にがんの手術の切開がある。
尺膚:数

考察と診断
1 西洋医学や一般的医療からの情報
過剰使用により、筋疲労。
日常的な身体的・心理的疲労の起因も肩こりの影響もある。

2 漢方はり治療としての考察
情志の失調などにより肝の疎泄作用が悪くなり、そのために肩部の血流が悪くなると肩背部のこりが起こった。また、長時間の不良姿勢により肩部局所の気滞血おが発症したと考える。
気滞の改善を図り、血行促進を促し、督脈や足厥陰経穴や交会点に鍼を行う。

治療経過
1 初診時の治療
初回治療 去年 4月中旬
証:肝虚陰虚 太衝(肝兪土、衛気)鍼は森本ていしんの金鍼で行う。

腹診の表面の冷たく、臍の左側肝の所見が力なく抜けた感じ。
本治法は、兪土穴と決めたのは、土は脾の気血生成の能力向上に通じているから。
標治法は腹臥位で気血の滞りを流し、背腰部を緩めるために知熱灸を行う。
邪専用鍼を督脈上に熱感があるところに行う。

2 患者への説明
施術後は少し緩解しているが、無理しないように動きすぎないことを勧める。

3 継続治療の状況
2回目治療 4月下旬
証:肝虚陰虚証 右太衝(肝兪土、衛気)
標治法:前回同様、気血の滞りを流す。
また、1月と3月に連続してお姉様が亡くなったと聞き、気を落ちしているので施術を少なめにする。その後、よく話を拝聴することとした。

3回目の治療 5月上旬
証:心虚陰虚証 右労宮(心包火、営気)
標治法:委陽などの足三焦経を補い、上焦の熱を下ろす。
脈:沈、やや数、
腹診:心下部が堅くくぼみ、胸から上熱感、下腹部の冷えがあった。
前回にお姉さんことを聞き、もう少し証を見直すことにした。
季節の影響もあり、心・心包経を確認してみた。

4回目の治療 5月中旬
証:心虚陰虚証 右労宮(心包火、営気)
標治法:前回同様、足三焦経を行い、知熱灸を行う。
脈:浮、やや数。
前回の治療が肩背部の張りが緩解し、眼がすっきりしたと喜ばれた。

5回目の治療 5月下旬
証:心虚陰虚証 右労宮(心包火、営気)
標治法:前回同様、足三焦経を行い、知熱灸を行う。
前回より体力があり、同窓会にいくのが楽しかったと喜ばれました。
少しずつお話が増えてきました。

結語
1 結果
心血を回復させることを目標に、心包経に営気の手法を行う。心血の流れが回復すれば、血が脳を潤し、神明を安寧に導くことを行う。
現在は健康管理として2週間に一度の治療を行っている。

2感想
もともと素因として心気が虚損し、五志の安定が難しい人だったように思えます。
更にお姉さんのことが感情を乱れ、憂愁思慮の末、心気を大きく虚損し、心血の巡りが不足するに至った。脳を滋養できないため、ふらつきや目の焦点が合わないこともあった。


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