寛解までに5ヶ月もかかってしまった右肩関節痛
ホームへ戻る 研修資料一覧ページへ戻る
2019/09/15
寛解までに5ヶ月もかかってしまった右肩関節痛
発表:山森伸樹
患者:S. Y. 、69歳男性、測量士
1 診察について
1-1 初診時について
初診:平成31年4月2日
主訴:服を着るときに右肩関節が痛い。
1-2 その他の愁訴、既往歴、現病歴
1)現病歴
@1年ほど前、逆立ちをしたら右腕に違和感を感じた。
Aそれ以来、右腕を動かすと痛む。
B近所の接骨院で運動療法と電気治療を1年あまりも続けたが殆ど効果がなかったので、患者さんの紹介で来院した。
C現在、肩関節前方挙上が最も苦痛である。
D運動時痛は1日中あるが、特に起床時には関節が固まったような感じで不快である。
E自発痛、夜間痛はないが、寝返り時に痛みで目が覚めることがある。
F仕事で重いものを持った後に疼痛増悪。
2)既往歴
特記すべきものなし。
1-3 四診法
1)望診
@身長約160cm、体重約60kg。
A外の仕事のためよく日焼けしている。
B立ち振る舞いはキビキビとしている。
2)聞診
@話し方はやや早口で軽い感じ。
A声は大きくも小さくもなく、受け答えは明晰である。
B五音・五声・五香は不明。
3)切診
[脈診]
@やや浮・やや数・虚
A左関上十二から十五菽でショク脈。最も正脈から外れている
[腹診]
@全体に柔らかくて暖かい。
A臍の左側がやや張っている。
B肝・腎の診所の境界部に粘つきは観られない。
[切経]
@右三角筋全体に弾力なく、古い綿のようである。
A同筋の前1//3には熱感と腫脹が観られる。
B右肩グウ・臂臑に圧痛あり。
2 考察と診断
2-1 西洋医学や一般的医療からの情報
病院での診察など、記録するのを忘れてしまった。
2-2 漢方はり治療としての考察
@逆立ちをしたために肩関節周囲の軟部組織、特に三角筋を傷めたものと思われる。
Aその後に適切な治療が行われなかったことや、仕事で重いものを持つなどの不養生が重なり、本格的に悪血が形成されたものと考える。
3 治療経過
3-1 初診時の治療
[本治法] 肺虚肝実証
@左太谿に営気の手法
A発症の経緯から脾虚肝実証を想定していたが、脾経を軽擦しても、各脈位、特に左関上が菽法に収まらない。
B腎経を軽擦すると各脈位がすんなりと菽法に収まった。
[標治法]
@右肩グウから臂臑にかけての腫脹部分に瀉法鍼とローラー鍼を施す。
A肩背部に温灸を施す。
3-2 患者への説明
発症から1年あまりであり、その間適切な治療を受けられなかった。炎症引かせるには約4週間、日常生活に支障がなくなるまで更に8週間かかると思うと伝える。
3-3 継続治療の状況
@4月2日〜23日(1〜7回目週2回治療。三角筋の熱感と腫脹はほぼ消失した。
A4月30日〜6月17日(8〜)14回目)
週1回治療。肩ぐうから臂臑にかけての硬結が少しずつ解けていく。運動時痛はあまり感じなくなった。
B6月24日〜7月29日(15回目〜)19回目
週1回治療。三角筋の弾力が出てくる。起床時の固まった感じが半分くらいになる。
C8月5日〜19日(20〜21回目)
三角筋の弾力が戻り殆ど左右差はない。起床時の症状は殆ど感じない。症状寛解ということで治療終了とした。
(治療期間約5ヶ月、21回)
4 結語
4-1 反省と問題提起
@治療期間の読みは何年経っても難しい3ヶ月と思ってた見込みが外れて5ヶ月もかかってしまった。患者としては、治療直後に運動痛が軽くなり、起床時の痛みが着実に軽くなるのを感じてくれたので、あまり気にしていないようではあるが、治療家としては嘆息を禁じ得ない。
Aご意見伺い
瀉法鍼を打ち込むという治療自体は間違いないと思うが、打ち込む場所はどうやって決めたらいいのだろうか?
4-2 感想
時間はかかったがどうにか寛解まで持ち込めた。三角筋の弾力が戻るのと連動して症状が改善していくのはおもしろい。鍼を刺さなくてもこのようなことができる漢方鍼治療は凄いと思う。
4-3 付記
それにしても、接骨院では何故運動療法と電気治療を1年あまりも続けたのか?発症の経緯を聴き、患部が明らかに主張しているのを観れば、安静が必要であるとわかるはずなのに、全く理解に苦しむばかりである。