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治験発表「コロナ後遺症と思われる慢性頭痛」 3回の治療で完治

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2023年10月15日

「コロナ後遺症と思われる慢性頭痛」 3回の治療で完治

発表:山森伸樹


1. 診察について


患者:Y.T 57歳女性、当院でパート勤務

主訴:頭部左側の頭痛がなかなか治らない。倦怠感でやる気が出ない。

[現病歴]
 7月初め、韓国旅行に行く。帰国翌日に発熱38℃。三日間続く。4日目に38℃に解熱したので、コロナを疑い近所の医院を受診するも、事前予約なしの検査は受け付けられず。あまりの辛さに再受診を断念した。
 自宅療養で解熱剤のみ服用したが、咽喉痛が非常に鋭く、液体が喉を通っても痛んだ。また、扁桃を中心に白い苔状のものが付着していた。
 発熱は徐々に下がり、6日目には平熱となった。しかし、咽喉痛のため、十分な食事が取れず、体力が低下した。10日間休養した後、症状は一応の収束を観た。
 それから3週間経つが、左頭部全体にズーンとした痛みがある。時々痛みが強くなり、倦怠感もある。

[既往歴] 特記すべきものなし。

[四診法]
 望診:身長169cm、体重58kg
 聞診:声に力がなく、動作もやや緩慢。
 切診:
   1. 主訴部位に手をかざすと、熱感があり、チリチリとした不快感を感じる。触診すると若干むくんでいる。
   2. 首から頭にかけては、汗をかいているが、手足や体幹は汗をかいておらず、むしろ冷たい。肌は乾燥気味である。

 腹診:腹部全体に冷たい。腎の診所と肺の診所で指の滑りが悪い。
 脈診:全体的に沈んで硬く騒がしい。左尺中は十二菽で艶なく硬い。右寸口は九菽ではっきりと打っている。

2. 考察と診断

  [西洋医学や一般的医療からの情報] 前記の事情により、西洋医学からの情報なし。

  [漢方はり治療としての考察]左尺中は十二菽で艶なく硬い。右寸口は九菽ではっきりと打っている。

 証:邪論の腎病

 病理考察:
  1.クーラーの使用や海外旅行によって肺気が損耗する。
  2. 肺気が損耗すると宣発作用が低下する。
  3.宣発作用が低下すると、衛気が十分に巡らなくなる。
  4. 衛気が巡らなくなると防御作用が低下する。
  5. そこへ風寒が膀胱経から侵入し、腎経にまで達した。
  6. 時間経過とともに発熱などの病症は一応の収束を観るが、腎経と膀胱経に邪気が残った。
  7. 邪気は熱となって頭痛を起こした。
  8. 時々症状が強くなるのは、熱が表に出ようとするためである。

3. 治療経過

  [初診時の治療(8月2日)]
   本治法:右太谿に営気の瀉法
    1. 二木式てい鍼を逆さまに持ち、押手とともに邪のある深さまで鍼を体表に押し込む。
    2. 鍼を通じて体内の邪が流れ出す。
    3. しばらくすると邪が流れなくなるので、鍼尖をわずかに動かして邪が流れる角度を探す。
    4. また邪が流れなくなるので、鍼尖を動かす。
    5. これを数回繰り返す。
    6. やがて邪がドバッと出てくる。
  ここまでやく4・5分。

   標治法:
    左崑崙から衛気の瀉法:邪を引きずり出すイメージで鍼をゆっくりと抜鍼する。するとゴム紐を引っ張っているような感覚で、鍼が持って行かれそうな感覚になる。やがてそれがふっと弱まるのを度として、邪を引き出すイメージで針を動かす。ふっとい気を吐く。
    左風池に透熱灸 東部の邪を排出させる目的で左風池に透熱灸

  [患者への説明]
   まず先日の発熱がコロナである可能性があり、今回の頭痛がその後遺症かもしれないことを説明し、次いで7月の研修会でその対処法を学んでいたので治療が可能であることを伝えた。
   患者さんはすごく驚いていたが、安心し納得してくれた。

 8月5日(2回目):
  患者曰く、頭痛は時々感じるが忘れていることもある。しかし、鼻水と軽い咳が気になる。
  脈診では、まだ左尺中が浮き、右寸口が沈んではいるが、全体的には静かな脈である。
  腹診でも腎と肺の診所で指が滑らない。
  主訴部位に手をかざしてもチリチリ感は殆ど感じられない。

  本治法:右陰谷に変更。前回同様の手技
  標治法:左風池に透熱灸

 8月9日(3回目)
  患者曰く、頭痛は完全に収まったが、代わりに左側頸部から後頭部にかけて凝って痛い、とのこと。
  触診すると、左側頸部に緊張が認められる。翳風を押圧すると圧痛を認める。左顎関節に噛みしめがあると診る。
  脈診では、左関上が十五菽で沈渋、右寸口が六菽。
  腹診では、肝と腎の診所の境界に粘っこい所見を触れる。

  証:肺虚肝実証
  本治法:右太谿に営気の補法
  標治法:脈状と腹症から陽キョウ脈の適応と診る。左肩グウと風池に二木式奇経鍼を押し当てて揺らす手技を行う。
  結果、側頸部の緊張、自覚症状ともに殆ど消失した。


4. 結語

 [結果] 治療回数3回、7日間で治癒

 [感想]
  7月の月例会で勉強したことが役に立った。脈状も腹症も、実技で観たものとあまりに酷似していて驚いた。腎経に瀉法をするときは、ドキドキして緊張したが、いざやってみると、実技でのイメージがあったので、落ち着いて対処することができた。

 [付記]
  コロナ感染後やワクチン接種後に、不調に悩む人は多い。医療機関でも治療法が確立されておらず、十分に対処できないこともある。漢方鍼治療には、そうした患者の悩みに応えられる可能性がある。漢方鍼治療に出会えたことに感謝の念を禁じ得ない。 そして、一人でも多くの鍼灸師がこの治療法を学び、悩める患者を助けてほしいと思う。


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