タイトル装飾画像
滋賀漢方鍼医会ホームページ鍼画像
タイトル装飾画像

治験発表 股関節亜脱臼と想われる下肢の痛みと感覚麻痺の治験

ホームへ戻る 研修資料一覧ページへ戻る

2025年3月16日

股関節亜脱臼と想われる下肢の痛みと感覚麻痺の治験

発表:小林久志


1. 結果
 現在は完治ではないものの、仕事を十分にこなせるまでに回復している。今後は患者自身にも正しい姿勢を意識してもらいながら筋力を付け、ともに完治を目指している状況である。

2. 診察について
 患者:57歳女性
 職業:保育士
 初診:2024年9月7日

 ◆主訴
 腰痛および右下肢の痛みと痺れ

@現病歴 学生の頃に右足首を骨折した。その後、患部を庇うせいか姿勢も悪くなり徐々に動きが悪くなってきたような感じがあるという。30代から40代には、腰が重いようなだるい感じが頻繁に起こるようになった。でも体を休めると快復するのでそれほど気にもしなかった。しかし50代に入ると腰の痛みがひどくなってきた。昨年7月頃から、特に右の下肢から足の痺れが激しくなった。右足の親指は足を骨折して手術をした後遺症でずっと痺れが強く感覚がない。足底には何かガムテープでも貼り付いているような感じがあるという。下腿部も日によっては触られても感覚がない時がある。
整形外科に行ったがレントゲンを撮られ腰椎の4、5番が極端に前に凹んでいると言われた。坐骨神経痛と言われ、血流を良くするなど薬を沢山もらったという。本人は手術をしないと駄目かもしれないと内心は思っていた。しかしそのような話しはなく、もらった薬を服用して過ごした。でも全く症状が改善することなく、医者にそのことを話すと、「そんなすぐには良くならないから。」と。「いつよくなるんですか?」と尋ねると、ある時、突然良くなるから」と言われたとか。それでこれはもう駄目だと思い、薬を飲むのを止めた。以前に何かあったらこちらのはり治療に行きなさいと知り合いの人から言われていたのを想いだし来院となる。
 初診時は、もういつ歩けなくなるか、いつ倒れるか、もう限界に近い状態での来院となった。かなり痛みが強く立っても座っても寝ていても痛みが治まらず、痛み止めの薬で何とか堪えながら仕事をしている状態。さらに仕事の時は腰や下肢に布を縛り付けていると少し楽になるのでそうしているとのことだった。しかし、そうかと想えば動いているうちに痛みが楽になることもあるとのことだった。

A既往歴 中学1年生の時に右足首を骨折し手術。29歳の頃子宮頸ガンで手術。慢性腰痛。

 ◆四診法
@望診:身長約160cmで肥満。
A聞診:少ししゃがれた感じの声。明るく優しいしゃべり方をされる。受け答えもしっかりしている。
B腹診:腹部全体はふっくらと柔らかな感じ。しかし心窩部はやや張っている感じ。臍の左下、腎と肝の診どころの境目に悪血反応あり。
C脈診:全体的に浮、渋。左関上肝の脈は結ぼれるが如く脈。

3. 考察と診断
 ◆西洋医学や一般的医療からの情報
 この患者は整形外科で坐骨神経痛だと言われている。確かに腰椎の4番、5番あたりが極端に前方に落ちくぼんでいる。私も坐骨神経痛だろうと思っていた。しかし治療を進めていく中で一番の原因は股関節の亜脱臼にあるのではないかと確信に至った症例である。
それは同じ時期に治療に来ていた6ヶ月の赤ちゃん。母親から、「この子の足悪くないですか?」とのことで股関節脱臼を起こしていないか検査をしてみた。その結果は全く異常はなかったのではあるが…。しかしこの赤ちゃんの一件から、今坐骨神経痛で治療している患者さんは股関節が悪いのではないかとふと想った。それは股関節が外れると骨盤が前方に倒れるため腰椎が前方に前弯し、お尻が後川に飛び出すような状態になる。そう思ってあらためて患者を診てみると、そのまんまと言っても間違いのないような状態であった。それと患者自身がうつ伏せで寝ている状態で、患部の股関節を屈曲し足をカエルのように開くと楽になるという訴えがあった。このことからも股関節が悪いと確信した。それは股関節が屈曲、外転で整復されるからである。これが判ったことで悪いときの対処法としてのアドバイスをすることもできるようになった。

◆漢方はり治療としての考察
 我々の漢方はり治療は生命力強化の治療とも言える。全身の気の流れを調整することにより自然治癒力が増し、多少の関節の歪みや骨のずれなどは整復されてしまう。こは漢方はり治療をされている先生なら何度も経験されてもいるであろうし、本治法直後に左右の足の長さが整ってしまうということなどは当たり前のように経験していることである。 まずはこの患者も本治法を中心に治療を進め、長年の姿勢の悪さからくる股関節や腰への負担を軽減するような日常の体の使い方など指導しながら改善を計ることが大切であると考えた。

 ◆証決定
総合的に診て肺虚肝実証として治療すべき証とした。

4. 治療経過
 ◆初診時の治療:2024年9月7日
@本治法:肺虚肝実証として右の太渓に営気の補法。三焦経の右陽池にも営気の補法を行う。
A標治法:頚肩部、背腰部に適宜散鍼を行う。両方の大転子周囲および殿部の緊張をにき式奇経鍼にてゆるめ、尾骨にも気を流すように手技を加える。両腰部に円皮鍼を添付する。最後に腹部に散鍼を加え初回の治療を終える。(かなり状態がひどいので継続治療をと話す)

2回目:9月12日
 前回治療してもらって数日は痛みも楽で、駅の階段も自然と走って降りたりしていたという。でも腰に着けていた円皮鍼を外すと急にまた痛みと痺れが出てきた。お祖母さんのように腰も曲がってしまう。右足の拇指の痺れが強い。それと左の首の後側が引き連れるように痛む。
 脉診:浮、渋。証は肺虚肝実証として治療を行う。
 標治法は前回ほぼ同様に行う。

3回目:9月14日
昨日小さい溝に足を引っかけ転けかけた。でも踏ん張って転けずにすんだ。でもその時に右の下肢に痛みが走った。その後膝が痛く疼き出した。腰は特に悪くなった感じはない。
脉診:やや浮、渋、実。証は脾虚肝実証として治療を行う。

5回目:9月21日
 昨日は痛みひどく、杖を着かないと歩けないほどだった。今朝から少し痛みがましになった。車に載るとかなり動けるようになった。膝はましだが、下腿部の前外側が痛む。それと横臥すると右の大転子あたりから腰にかけて痛む。

6回目のとき、腹筋運動のやり方をお教えする。それと柔らかなマットの上で寝るのはお尻が沈んで腰が反るのでよくないことなど話す

11回目:10月26日
 やはり右の股関節部から下肢にかけて痛だるい感じ。でも痛い部分がその時々で変化する。
 荷物を運んだりするときは右を庇って左側の肩や腕で持つようにしたりする。でもなぜか右の肩や腕に荷物をかけて持つと後で股関節や下肢の痛みがものすごく楽になることがあるという。

15回目:11月30日
 しばらく間が空いた。仕事やそれ以外でも忙しくて体はボロボロ。最近特に尿漏れもひどくてトイレに間に合わずにパンツを着換えないといけないようなこともある。
 股関節部の状態も悪く右足は感覚がないような感じ。拇指はずっと痺れている。左右見比べても右側は気血が流れていない感じが強い。

27回目:1月27日
 比較的調子良い。痛みを感じないときも出てきた。ちょっと痛みが出てきたと想ってもまた動いているうちに治まるようになってきた。この頃は右足の拇指の感覚が出てきた。腰椎の極端な前弯が正常な位置に近づいて来ている。体全体も引き締まってきている。

35回目:2月27日
 右の臀部から大腿部後外側辺りが痛む。でも下腿部の感覚はほぼ正常になっている。足の親指を触られると、ちゃんと触られているという感覚がある。両足の皮膚の艶も良い。尿漏れも以前に比べるとましになっているという。
 意識していないが自然と走り出していることもある。この頃何かをやろうとか、やりたいという気力が湧いてきた。
 以前は寒がりでカイロをぺたぺた貼ったりしていたのが、今は布団を蹴飛ばすくらい寒さに強くなった。鍼をして血行が良くなったのか本当に体が温かい。

5. 結語
 現在治療を開始してからほぼ半年。初診時の頃は、いつ歩けなくなるか、動けなくなるかと患者自身、不安でいっぱいの毎日とのことだった。しかし現在は最悪の状況を脱し、心にも余裕が持てるようになってきている。喋っていても声に元気が出てきた。もともとは明るく元気な人だとわかる。今は痛みはまだあるものの治療すると2、3日は楽に過ごせるようになってきている。しかし完治には未だ至らない。
 長年の姿勢の悪さから腰や股関節部に負担がかかっていたと思われる。それが限界に達して悲鳴を上げだした。そして治療していく中で、ただの坐骨神経痛ではなく股関節が悪いのでは、亜脱臼を起こしているのではと考えるようになった。それは痛みがひどい時でもしゃがんで股を開くような姿勢でいると立った時に不思議と痛みが治まるという所見からも想像できた。ただ逆のパターンとして、何かした拍子に突然痛みが起こることもある。要するに関節部をしっかり固定するための筋力が弱っていると考えられた。また尿失禁があり、朝起きてからトイレに行く間に堪えきれずに漏らしてしまうという。このことからも骨盤底筋などインナーマッスルもかなり弱っているというか、長年の姿勢の悪さからちゃんと筋肉が使えていない状態だと考えられる。今後は患者自身も正しい姿勢を意識し、徐々に筋力を着けながら完治を目指していけるよう、一緒に取り組んで行きたいと思っている。


ホームへ戻る 研修資料一覧ページへ戻る


Copyright(c)2010 shigakanpouhariikai All rights reserved.